ワイヤレスイヤホンを使っていて、「音の遅延」を感じた経験は誰もがあるかと思います。遅延に関わってくる要因は様々ですが、なかでも影響が大きいのは「Bluetoothコーデック」です。
Bluetoothコーデックとは、音を伝送するときに使われる圧縮方式のこと。いくつかの種類があり、その種類よって音質や遅延の程度が変わります。音楽には高音質のコーデックが向いていますし、動画視聴やゲームといった用途では低遅延のコーデックが最適です。
今回は「Bluetoothコーデック別の遅延」がテーマです。主に以下について解説しています。
コーデック別の遅延は個人的にも検証してみたかったところ。少しマニアックな話題にはなりますが、特にワイヤレスイヤホンの購入を検討されている方に参考にしていただける内容となっていますので、ぜひチェックしてみてください!
Bluetoothコーデックの種類と違い
まずは、「Bluetoothコーデックにはどういう種類があるの?」という方のために代表的なコーデックの特徴と向いている用途を表にまとめました。
| コーデック | 特徴 | 向いている用途 |
|---|---|---|
| SBC | 全Bluetooth機器対応の標準 音質は標準的、遅延はやや大きい | 通話、ポッドキャスト |
| AAC | Apple機器で主流 | 音楽、動画視聴 機器によっては動画視聴に不向きな場合あり |
| aptX | SBCより低遅延・高音質 | 音楽、動画視聴 |
| aptX HD | 24bit/48kHz対応 ハイレゾ相当の高音質 | 高音質音楽再生 |
| aptX Low Latency | 低遅延特化 対応機器が少なく、主流はaptX Adaptiveへ | ゲーム、動画視聴 |
| aptX Adaptive | 低遅延〜高音質を自動切替 音質/遅延を状況に応じて最適化 | 万能(音楽〜ゲーム) |
| aptX Lossless | CD品質(16bit/44.1kHz)のロスレス伝送 | 高音質音楽再生 |
| LDAC | Sony開発 最大990kbpsでハイレゾ対応 | ハイレゾ音楽再生 |
| LC3 | LE Audio用次世代コーデック 低遅延/標準モード切替可(機器による) | ゲーム、音楽、動画、通話 |
ここ数年で特に存在感があるのが「aptX Adaptive」です。強みは状況に応じて音質と遅延のバランスを自動で最適化できること。aptX Adaptiveの中に低遅延寄りと高音質寄りのモードがあり、本記事では、便宜上、「aptX Adaptive(低遅延)」「aptX Adaptive(高音質)」と書き分けています。
もうひとつ注目度が上がっているのが「LC3」です。LC3はLE Audio向けの次世代コーデックで、低いビットレートでも高い音質を維持でき、省電力化も実現できる点が特徴です。従来のSBCやAACなどとは系統が異なります。
LC3も組み合わせる機器によって高音質寄り・低遅延寄りとモードが変わります。本記事では、「LC3(標準)」「LC3(低遅延)」と書き分けています。
検証方法と検証環境
計測結果を「体感の遅延」に近づけるために、有線イヤホン「EarPods(3.5mm)」の遅延をベースラインとし、各Bluetoothコーデックとの差分を計測しました。

一般的に「aptX Adaptiveの遅延は50〜80ms」といった数値が紹介されますが、これはシステム全体の遅延(音源から耳に届くまでの合計時間)です。この数値は計測環境によって大きく変わります。
今回の検証では、同じ環境で有線とBluetoothを比較し、その差分を「有線比」として算出しています。こうすることでOS処理やDAW(録音ソフト)、マイクなどの共通部分の遅延を相殺でき、純粋なBluetooth/コーデック起因の遅延に近づけられます。

Bluetoothトランスミッターには、aptX AdaptiveからLC3まで幅広いコーデックに対応する「eppfun AK3040Pro MAX」を使用しました。本体のボタンを操作することで接続コーデックを切り替えられるので、今回の検証には最適です。

ワイヤレスイヤホンには、LC3を含む様々なコーデックに対応する「EarFun Air Pro 4+」を使用しました。
| 項目 | 使用機材 |
|---|---|
| PC | 14インチMacBook Pro(M5) |
| DAW | Audacity |
| トランスミッター | eppfun AK3040Pro MAX |
| ワイヤレスイヤホン | EarFun Air Pro 4+ |
| マイク | Blue Yeti(BM400BK) |
| 有線イヤホン(ベースライン計測用) | Apple EarPods(3.5mm) |
以下は検証方法のイメージ図です。

Audacityで生成したクリック音を再生し、トランスミッター経由でイヤホンから鳴った音をマイクで集音。音源と集音した音の差を遅延として計測しています。

検証結果(有線イヤホンとの遅延比較)
検証結果は以下のとおりです。
| コーデック | 有線比 |
|---|---|
| ─(有線) | ±0ms |
| LC3(低遅延) | -45ms |
| aptX Adaptive(低遅延)※ | +20ms |
| LC3(標準) | +32ms |
| aptX | +192ms |
| aptX Adaptive(高音質) | +297ms |
| aptX Lossless | +300ms |
| SBC | +346ms |
今回の検証で重要なのは「有線比」です。有線比の列は、有線イヤホン(EarPods 3.5mm)の遅延を基準(±0ms)としたときに、各コーデックがどれだけ遅いか(または速いか)を示す数値となっています。
なお、AACやLDACなどのその他のコーデックは検証に用いたトランスミッター・イヤホンが対応していないため掲載していません。異なる機器を含めると機器差が出るので、あえて検証から外しました。
LC3(低遅延)が有線より速い
驚いたのは、LC3(低遅延)が有線イヤホンよりも速いという結果でした。マイナスに振れたことを不自然に感じて4回繰り返し計測しましたが、ばらつきはわずか2msで結果は変わりませんでした。
有線イヤホンがPC内部のオーディオ処理を経由するのに対し、ワイヤレスイヤホンは内蔵DACで処理します。EarFun Air Pro 4+の内部処理が軽量なため、PC経由の有線より速くなったと考えられます。
aptX Adaptive(低遅延)もほぼ有線レベル
aptX Adaptive(低遅延)の有線比は+20msでした。人間が知覚できる遅延のしきい値は一般的に20〜30msと言われているので、体感では有線との差を感じにくいレベルです。
もちろん、機器の組み合わせによって結果は変わってきます。すべての対応機器で同じ結果になるとは限りませんが、低遅延を目指すならLC3(低遅延)またはaptX Adaptive(低遅延)対応のトランスミッターやイヤホンを選ぶのが良いでしょう。
LC3(標準)も超優秀
LC3(標準)の有線比は+32msでした。知覚しきい値をわずかに超えており、シビアなリズムゲームなどでは遅延に気がつく人が出てくるかも……というライン。
とはいえ、私の耳では有線との差は感じとることができませんでした。YouTubeで人が話している動画を観ても、口元と音が完全に一致しているとしか思えません。それくらい優秀です。
やはりSBCの遅延は大きい
Bluetoothオーディオの標準コーデックであるSBCですが、遅延は有線比+346msと、有線と比べて大きな差がつきました。300ms(0.3秒)もの遅延があると、動画再生時は口元の動きと音のズレがはっきりと分かります。
また、aptX Adaptive(高音質)とaptX Losslessも有線比+297〜300msと大きな遅延がありました。これらはもともと音質優先のモードなので、音楽をじっくり聴く用途向けです。
まとめ
Bluetoothコーデック別に遅延の程度を検証してみて、もっとも印象的だったのが「aptX Adaptive」と「LC3」の遅延の少なさでした。特にLC3(低遅延)は有線より速いという結果に。「有線より速い」という事実がにわかに信じがたく、トランスミッターやイヤホンをリセットしたりMacBookを再起動したりと時間をかけて検証してみましたが、何度も計測しても結果は同じでした。
LC3は普及初期で対応機器はまだ少なく、組み合わせの相性の問題もあります。現時点においては、LC3に対応するトランスミッターは今回検証に使用した「eppfun AK3040Pro MAX」くらいしかありません。
一方で、aptX Adaptiveはミドル〜ハイエンドのワイヤレスイヤホンやトランスミッターで採用されており、製品の選択肢は豊富です。aptX Adaptiveは高音質と低遅延をひとつのコーデック内で状況に応じて使い分けられることも大きな魅力です。
\ ひとつ持っておくと便利! /
\ これから買うなら高性能コーデック対応 /
これら低遅延コーデックの恩恵を受けるには、ワイヤレスイヤホン側だけでなく送信側(スマホやPC、トランスミッター)の対応も必須です。aptX Adaptiveを含む様々なコーデックに対応するトランスミッターをひとつ持っておけば、PCやPS5、Nintendo Switchと差し替えるだけで使えるので便利です。